一作

伊藤たかみ, アンダー・マイ・サム

アンダー・マイ・サム (講談社文庫)

アンダー・マイ・サム (講談社文庫)

長すぎる左手の親指を持つ僕は
ある日、自分から自分自身が外れてしまい
捨てなければいけなかった自分・・・そのままの現実の自分に
度々分かれるようになってしまう


目に見えない外れた自分は
長すぎる親指で人に触れることで
他人の悲しみを知ることになる


家族を憎む友人の清春
顔に傷を持つ初体験相手のみゆき
そして、抱え続ける気持ちごと振り回され続ける僕
それぞれの葛藤と歪な発露の一作



「ぎぶそん」みたいな瑞々さの児童文学と
「8月の路上に捨てる」のような社会と個との作品
その中間地点、ある意味伊藤先生の真髄を見た気がした


17歳の僕らを舞台に描かれた作品が故に
敏な部分とか鋭さは極端ではあるけど
決して「若い」とか「青い」で片付けられない
どこまで行っても、幾つになっても
人の質が抱える遣る瀬無さとか
在るべき場所に戻れないズレが描かれてる



体が外れる問題など、ちょっと消化不良に終わってる部分もあるけど
それも含め、登場人物と読者に
未来の想像を委ねられてるのかと


読後感に意味のある作品
これこそ自分の好きな類なのかもなあと薄々感じつつある