さよならバースディ

さよならバースディ (集英社文庫)

さよならバースディ (集英社文庫)

霊長類研究センターでの実験により人の言葉や気持ちをある程度理解できるようになり、キーボードを使った簡単な会話すら可能になった猿のバースディ。そのバースディの世話をしながらプロジェクトに関わる主人公の真の周りで不可解な自殺が連続して起こり始める。
事件の唯一の目撃者であるバースディに真は真相を聞き出そうとするが・・・



荻原先生のミステリー作品にしては仕掛けからの引っ繰り返しが弱い気もしたけど、そもそもミステリーなのか(本の後ろには長編ミステリーって書いてあるけど)。
人が亡くなったりもう会えなくなったりすることで、伝えられなくなった想いや確かめることが出来なくなったこと、それがバースディというたどたどしくしか言葉を伝えられない媒介を通してシンプルに重みを持って再現されていく。



本来、伝えること伝えられることはほとんど受け取り手の想像頼りの部分が大きい。
そこにある信頼関係こそが愛なのかもしれない。



そして泣いている主人公に「め みず」と告げるバースディの愛おしさ。全編を無邪気に駆け回るまるで子供のようなバースディ。いろんなことを学びながら知りながら、喜んだりいじけたり・・・タイトルの通り、最後には別離することがわかっていながらのパートナーとの日々に切なくも、それが共に生きる幸せなんだと思える一作。