あの日にドライブ

荻原浩, あの日にドライブ

あの日にドライブ (光文社文庫)

あの日にドライブ (光文社文庫)

「もしとかたらとかればとかそんな思いに惑わされんじゃねえ
お前が選んだ一つのことがお前の宇宙の真実だ」


自分が大好きなアニメ、「天元突破グレンラガン」の登場人物
カミナはこう口にしている



「もし」とか「たら」とか「れば」を
人はどうしても想像してしまうもの


この作品の主人公の元エリート銀行員の伸郎は
上司への失言から会社を退職することになり
タクシードライバーへと身を窶す


こんなはずじゃないと続ける仕事の運転中
たまたま立ち寄ったかつて暮らしていた町で、当時のことを思い出す
あの頃からやり直せたら・・・違う道を選んでいればと悔い
パラレルワールドを妄想する日々が始まる


妄想と仮定の可能性に取り憑かれた伸郎は
あの頃の未来をまだ取り戻せると妄信し
かつての恋人や夢にもう一度会いに行こうとするが・・・



仮に、「もし」とか「たら」とか「れば」が可能になる方法があるとしても
違う新しい日常もまた今と同じくらい歪んでいるのだろう


未来と成り行きの全てが偶然で成り立っていたとしても
新しい選択によって正されていったとしても
そこに浮かび広がっていくのが
変わらぬ一人の人間という同じ宇宙である限り



最後、変わらぬ日常の中に些細な喜びややりがいを見つけ始め
取り戻したかったこと失くせないことに触れて
伸郎は気付いたのかもしれない


カミナの言葉を借りるなら、それこそ「宇宙の真実」に



「もし」でも「たら」でも「れば」でもなく、今をもう一度選ぶこと
・・・新しくではなく、改めて


同じ自分に帰るという選択によって